音声分析最前線―声を聞けば病態が分かる「心のレントゲン」

voiceanalyzation

改正労働安全衛生法の施行に伴い、「ストレスチェック制度」が2015年12月にスタートした。
従業員数50人以上の企業は年1回、従業員の心の健康状態を調べることが義務付けられる。
ストレスチェックを実施するかどうかを企業ごとの裁量にゆだねる「努力目標」ではなく、「義務化」した背景には、
メンタルヘルス対策を先送りできないほど職場のストレス問題が深刻化している実情がある。

厚生労働省の調べによると、仕事や職業生活に関して、強い不安、悩み、ストレスを感じる事柄がある労働者は50%を
超えている。特に30歳代、40歳代、50歳代は他の年代よりも不安やストレスを感じている労働者の割合が大きい。

一方、メンタルヘルス対策に取り組んでいない企業は、従業員数が少ない企業ほど多く、
全体で4割近くに上っている。取り組んでいない理由としては、
「取り組み方が分からない(25.3%)」「専門のスタッフがいない(19.4%)」という事情のほかに、
「必要性を感じない(21.8%)」「該当する労働者がいない(39.0%)」を挙げる企業が多い。

必要性を感じない、該当者がいない、と思い込んでいるのは経営陣だけで、実際には大きな不安やストレスを従業員が
抱えている可能性はないだろうか。専門的なスキルがなくても、従業員のストレスをチェックできないものか。
そんなニーズに応える要素技術「音声病態分析」が日本で産声を上げ、医療分野への応用が進み始めている。

 

「本音と建前」や「自覚の有無」に関係なく病態を把握

音声病態分析とは、音声からストレス状態などを可視化する最新の音声分析技術である。
東日本大震災の被災地で救助活動に臨む自衛官の健康状態を把握するため試験的に用いられたのを機に、
東京大学大学院医学系研究科が中心になり、実用化に向けた研究開発を一気に加速させている。
直近では、JAXA(宇宙航空研究開発機構)も採用に向けた試験を始めた。

音声病態分析の最大の特徴は、「本音と建前」や「自覚の有無」に関係なく病態を把握できることだ。
言葉ではなく、声の周波数や強さを分析に用いるため「声の高低や性格といった個人差はもちろん、言語にも
依存しないで病態を把握できる」と、東大大学院の音声病態分析学講座で特任講師を務める光吉俊二博士は説明する。

例えば、「よく眠れる」「将来を悲観していない」「いつもどおりに働ける」と話しているビジネスパーソンがいたと
する。言葉と裏腹に本当は悩みを抱えているのに、パッと見はいつも元気そうなので、周囲からは大きなストレスが
あると気づきにくい。音声病態分析は、このように忍耐強く貴重な戦力として活動している従業員を早期に発見し、
ストレスによって事態が悪化する前に予防策を講じるといった使い方が可能になる。

なぜ、音声病態分析は本音と建前や自覚の有無にかかわらず、ストレスを把握できるのか。
そのカラクリは、人間の声帯と神経の切っても切れない関係にある。

人間の声帯は、「反回神経」と呼ぶ神経を通じて脳や心臓と直接つながっており、
脳や心臓の状態と連動して自然と声帯が緊張状態になる。
強い不安やストレスを感じたとき、意図せず声が上ずったり震えたりするのはそのためである。
このように脳や心臓の状態に“素直”に反応する声帯に着目し、ストレスを可視化する音声病態分析のことを、
光吉博士は「心のレントゲン」と表現する。

 

心疾患や認知症も早期に発見、「人財」を守る

音声病態分析は未来の技術ではない。「MIMOSYS」と呼ぶAndroid搭載スマホ向けのアプリを使って、
誰でも今すぐにストレス状態をセルフチェックできる。

MIMOSYSはスマホで通話するたびに、一時的に録音した音声データを数秒間で分析。
「とても穏やかな感じです」「いい感じに盛り上がった会話でした」といったコメントと共に元気度合いを計測する。
そして蓄積し続けた元気度合いをグラフ表示することで、ストレスの変化の兆候を逃さずに捉える。

ポイントは、利用者一人ひとりが自身のストレス状態を日常的に確認できる点だ。
「普段から体重計に乗っていると摂生の意識が働いて体重が減ってくるように、日ごろから会話を分析して客観的に
心の状態を把握することで、過度なストレスを抱え込まなくなる」(光吉博士)といった効果が期待できる。

音声病態分析の応用領域はストレスの可視化にとどまらない。前述の通り、声帯は脳や心臓と神経で直結して
いるため、「声を分析ことで心疾患や認知症の兆候も顕著に現れる」(光吉博士)という。

そこで東大大学院は現在、心筋梗塞やアルツハイマー、パーキンソン病の早期発見や診療に音声業態分析を
生かすべく、国内の医療機関や欧州の大学などと10件前後の共同研究・実証実験を同時並行で進めている。
光吉博士は「数年のうちには、医師の診断サポートツールを開発して実用化したい」(同)と意気込む。

大手に比べて人材を獲得しにくい中小企業にとって、今を一緒に戦ってくれている従業員は重要な財産である。
その財産を守ると共に、経営の陣頭指揮を執る自らの健康状態を維持するため、中小企業の経営者は音声病態分析の
今後の動向に注目していきたいところだ。

 

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