TPP協定を受けた改正著作権法に関する議論の解説(前編)

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TPP協定の合意により、中堅中小企業が影響を受けることの1つとして、著作権法の改正があります。弁護士法人 法律事務所オーセンスの企業法務弁護士である酒井氏にわかりやすく解説いただきました。

Q1
環太平洋経済連携協定(TPP協定)の合意を踏まえ、著作権法が改正されると聞きました。どのように改正されるのか、教えてください。
また、そもそも、なぜ今回、このような改正案が国会に提出されたのでしょうか。

A1
2016年3月8日、「環太平洋パートナーシップ協定の締結に伴う関係法律の整備に関する法律案」の一環として、著作権法の改正案が国会に提出されました。
改正のポイントは、以下の5点です。

(1) 著作権の保護期間を、現行の「著作者の死後50年」から70年に延長。
(2) 損害額の推定方法の追加。
(3) アクセスコントロールの回避等に関する措置の追加。
(4) 配信音源の二次使用に対する報酬請求権の付与。
(5) 著作権侵害罪の一部非親告罪化。

2copyrightlaw400267これらの改正案は、いずれも、TPP協定の合意を受け、TPP協定の求めている内容に添った法改正が求められたことから、提出されたものです。著作権法以外にも、様々な分野で、附則を含めると19の法律で改正案が提出されています。
改正の趣旨は、著作権法を国際標準(先進国標準)に合わせることにあり、主にOECD加盟国の制度を参照して、改正案が作成されているようです。
もっとも、我が国の著作権法は、TPP協定の求める事項のうち多くについて、すでに対応済みであり、未対応であった上記の5点について、上記の改正案が提出されました。

以下では、まず著作権保護期間の延長について、解説いたします。

Q2
そもそも、著作権保護期間とは何ですか。

A2
著作権保護期間とは、著作物に著作権という独占権が与えられる期間をいいます。
著作物とは、人が思想や感情を創作的に表現したものをいい、映画、絵画、小説、音楽などはもちろん、ウェブサイト、ブログ、匿名掲示板などの記事も著作物に含まれるのが原則です。若干古いものでは、匿名掲示板「2ちゃんねる」に掲載された、「電車男」に関するスレッドの一連の記事も、著作物です。ただし、単なる事実(5月の東京の平均気温が○度であった、など)は著作物には含まれません。
著作権とは、著作物について、複製、映画化・ドラマ化(「翻案」と呼ばれます)、翻訳、舞台上演などを行うことを独占する権利をいいます。現実には、独占することそのものより、第三者は著作権を持つ者(著作権者)の許諾を得なければ、複製、映画化等を行うことができないこと、つまり許諾を与える権利という形で働くことがほとんどです。
なお、翻訳の際にも、この言葉にどのような言葉を当てはめるのが適切かを選択するという点で創作的な表現を行っておりますので、翻訳物も著作物に含まれます。原作が一次的な著作物であることに対応して、二次的著作物と呼ばれます。

著作権は、ある時点から一定期間を経過すると失われます。この期間を、著作権保護期間といいます。
たとえば坪内逍遥氏の翻訳されたシェイクスピアの作品を映画化しようとすれば、原作者であるシェイクスピアと翻訳者である坪内氏(ないしそれらの相続人全員。著作権は相続されます)双方の同意を得なければならないのですが、原作も翻訳物も著作権保護期間が満了していることから、自由に映画化することができるのです。

Q3
現行法では、著作権はどの期間保護され、改正によってどのように変わるのでしょうか。

A3
現行法上、著作権の保護期間は、原則として著作者の死後50年間であり、改正案では死後70年間とされております。
ペンネームや団体名義の著作物等の著作権保護期間は、公表後50年間ですが、改正案では公表後70年間とされております。
映画の著作物だけは、すでに公表後70年間とされているため、改正はありません。
放送と有線放送は50年間のままとされています。これは、諸外国でも保護期間は50年間とされており、TPP協定が改正を求めていないためです。現在、世界知的所有権機関(WIPO)において、放送事業者等の権利保護に関する国際的なルールについて議論が行われていますが、そこでも、50年を超える保護期間という方向での議論は行われていません。

Q4
著作権の保護期間が延長されることで、ビジネスにどのような影響があるのでしょうか。

A4
第三者の作品を映画化、ドラマ化等しようとする映画制作会社等には、大きな影響があります。
原作者や翻訳者等の死亡後50年が経過しようとしている作品でも、映画・ドラマ化、舞台上演等の、既存著作物を活用した創作活動を自由に行うことができなくなり、著作権者の許諾が必要となります。原作者等が亡くなってから50年も経過しようとしている作品を自由に使えなくても、それほど問題はないのではないかと思われるかもしれませんが、50年経過しても魅力を失わない作品(つまり、映画化、ドラマ化、上演等を行い、視聴率や興行収入を見込める作品)を利用できなくなる点で、大きな影響を受けることになります。

3copyrightlaw400267また、承諾を得て映画化等をしようとする場合にも、障害が大きくなることがあります。著作権者が自然人である著作物の場合、著作権は相続により承継され、その際に複数人の共有となることがありますが、その場合には共有者全員の許諾が必要となります。著作者の死後50年も経過した時期であれば、相続人も多数にわたり相続人を見つけ出すことも容易でないということもあります。これが、著作者の死後70年間ということになると、その労力はより大きなものとなることが想定されます。
そのような場合のために、文化庁長官の裁定により著作物を利用できる仕組みもありますが、手続としては煩雑です。文化審議会著作権分科会法制・基本問題小委員会の「環太平洋パートナーシップ(TPP)協定に伴う制度整備の在り方等に関する報告書」(平成28年2月)によれば、これに備えた権利情報の集約やライセンシング(利用許諾)について、順次、環境整備のための方策を整えていくべきであるとのことです。

Q5
すでに原作者の死亡後50年が経過している作品の著作権は、著作権がなくなっていたはずですが、今回の改正により復活するのでしょうか。

A5
この点について明示した附則はないようですが、文化審議会著作権分科会法制・基本問題小委員会「環太平洋パートナーシップ(TPP)協定に伴う制度整備の在り方等に関する報告書」によりますと、保護期間が延長されるのは、その時点で著作権が消滅していない著作物のみであるとのことです。
したがいまして、改正案の効力発生日時点で原作者や翻訳者等の死亡後50年が経過している作品については、映画・ドラマ化、舞台上演等を自由に行うことができます。
公表後50年を経過している団体名義の著作物等も同様です。
なお、著作権者側が保護期間延長の効果を得るためには、著作者の死亡日や公表日(Q3ご参照)を立証することで、改正案の効力発生時が死語50年・公表後50年経過前であることを示す必要があります。

Q6
この改正案は、いつから効力が発生するのでしょうか。

A6
原則として、TPP協定が日本国について効力を生ずる日とされています。具体的には、原則として、全12カ国が署名から2年以内に国内の法整備等の手続を完了すれば、その60日後とされておりますが、2016年6月7日の日本経済新聞社ウェブサイトによれば、2018年以降になるとみられているとのことです。


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