企業が検討すべき長時間労働防止策

long working hour 800x400

 

 

 

2015年末に株式会社電通の社員が過労により自死するという痛ましい事件が生じました。今回の事件をきっかけに、企業が意識すべき、従業員の長時間労働によるリスクとその予防策につき、弁護士法人 法律事務所オーセンス の企業法務弁護士である飯田弁護士にわかりやすく解説いただきました。

Q1 2015年に株式会社電通の従業員が過労により自死するという事件が生じ、2016年秋には厚生労働省が強制捜査に踏み切るなど世間を騒がせましたが、法律上は何が問題となっているのでしょうか。

A1
この問題は、労働基準法という法律に定められた労働時間の超過が問題となったものです。
労働基準法は、1週間40時間、1日8時間を法定労働時間としています。原則として、これを超えて従業員を働かせることは違法です。ただし、労使間で労使協定を締結することにより、一定の制限はありますが、法定労働時間を超えての労働、休日の労働をさせることが可能となります。電通は事件当時、労使協定により1か月の残業時間の上限を70時間と定めていました。なお、2016年の10月になって上限は65時間まで引き下げられています。
2016年9月、三田労働基準監督署は、今回の事件の被害者の1か月の時間外労働が約105時間にのぼるとして、社員の自死を労災と認定しました。これを機に、電通社内で、日常的に従業員に労使協定で定められた時間を超える残業を行わせる違法行為があった可能性が指摘され、同年10月には労働基準法に基づき厚生労働省東京労働局による社内への立ち入り調査(臨検)、そして同年11月には同局による家宅捜索が実行されました。
現時点では捜査段階であり、あくまで可能性にとどまりますが、仮に違法性が認められた場合は、刑事裁判において、定められた時間を超えて業務を行わせた者(上司など)には6か月以下の懲役または30万円以下の罰金という刑罰が、そして企業には30万円以下の罰金という刑罰が科せられる可能性があります。また、上述の刑事責任とは別に、民事裁判において、過重労働をさせた者及び企業に、従業員本人やその家族に対する巨額の損害賠償責任が認められる可能性もあります。過去には、違法な労働が原因で従業員が死亡してしまった場合に、企業側に億単位の賠償責任を認めた裁判例もあります。

Q2 報道によれば、残業ではなく、自己研鑽や私的情報収集などに充てる時間として会社に滞在している従業員もいるようですが、これらの時間は労働時間には当たらないのでしょうか。

A2
long working hour 400x267_2これは、その時間中、使用者の指揮命令監督下に置かれているかどうかという問題です。労働基準法上の労働時間とは、従業員が使用者の指揮命令下に置かれている時間のことをいいます。
自己研鑽の中身にもよりますが、業務とは無関係に自己のスキルを高めるための自発的活動であれば、業務時間には該当しません。他方で、使用者に指示された業務を遂行するために必要な情報や資料の収集などの活動であれば、使用者の指揮命令下に置かれていると評価できますので、労働時間に該当し得ます。
ただし、使用者が知らないままに従業員が勝手に業務を行った時間まで労働時間とすることはできませんので、労働時間というには、前提として使用者の明示的あるいは黙示の指示が存在することが必要です。例えば、明らかに残業しなければ終わらない量の業務を行うよう指示された場合などは、黙示の残業の指示があるものと評価できます。

Q3 休日、上司からのメールを確認するように求められることがあります。メール一通とはいえ、この確認や返信に要する時間は、業務時間ではないのでしょうか。

A3
休日であってもメールの返信が業務上求められているのであれば、それは従業員が使用者の指揮命令下に置かれているものといえ、業務時間に該当します。
さらに、連絡がいつ来るかわからない状況において、メールが来れば即座に対応することを業務上求められている場合には、従業員は常にメールの受信確認作業を行わなければならないという拘束を受けます。そのような拘束を受ける限り、メールが来るまでの間は休日らしく自由な場所で過ごして良いとはいえ、この待機時間も業務時間に該当する可能性があります。なお、待機中に結果的にメールが来なかったとしても結論は変わりません。

Q4 労働問題が発生した場合、企業にはどのようなデメリットがあるのでしょうか。

A4
労働問題といっても様々なものがありますので、今回の電通の事件のように長時間労働が問題となるケースを検討します。なお、厚生労働省が2016年11月に行った過重労働解消のための電話相談では、長時間労働に関する相談が最多の47.7%に上ったようですから、従業員側においても、この点に最も関心があるものと考えられます。
従業員の長時間労働問題が一度でも明るみに出た場合には、結果的に違法性までは認定されない事例であったとしても、報道により世間から悪印象を抱かれかねず、また一度醸成されたイメージの回復は困難であります。
いわゆるレピュテーション・リスクの問題です。
long working hour 400x267_1違法性まで認定される事例、すなわち労働基準法に違反する長時間労働が認められた場合には、A1で述べたとおり、定められた時間を超えて業務を行わせた者と企業のそれぞれが、刑罰及び高額の民事賠償責任を負う可能性があります。
また、従業員が未払い残業代の支払いを求める労働審判への対応コストの発生も想定されます。未払い残業代は、一日で考えれば少額であっても、最大過去2年間分に渡って請求が可能ですから、それが従業員全員分となると莫大な額になり得ます。

さらに、企業の上場審査の要素も時代に応じて変化するところ、現在、労務関係のコンプライアンスはとりわけ厳しい審査対象となっており、労務問題が明るみに出た時点で上場審査が頓挫することは少なくありません。
以上のリスクを考慮すれば、いかなる規模の企業においても、平素から適切な予防策を整えておく必要があるといえます。

 

Q5 従業員による法定労働時間を超える残業といった問題が生じるのを防止するために、企業としてはどのような予防策がとれるのでしょうか。

A5
法律に基づく制度設計としては、裁量労働制の導入が挙げられます。裁量労働制とは、実際の労働時間数にかかわらず一定の労働時間数だけ労働したとみなす制度のことをいいます。同制度によれば、仕事の進め方、時間帯、時間配分などを従業員が自由に選択することが可能となります。また企業においては、みなし時間が法定労働時間の範囲内である限り、労働基準法に抵触することを防止できます。
もっとも、裁量労働制を採用したからといって、企業が従業員の管理・監督をする必要がなくなるわけではありません。この制度は、使い方次第ではサービス残業の隠れ蓑ともなりかねない制度ですから、企業は、従業員の業務内容が裁量労働制にふさわしい内容であるか、みなし時間が実際の労働時間を考慮して適切に設定されているかなど、きちんと把握するよう努める必要があることには変わりありません。あくまで、企業が従業員の労働時間等につき管理をする負担を軽減する方策の一つと位置付けて考えておくことが適切です。
法律上の制度ではなく、各企業が実際に取り入れている独自の長時間労働の防止策には以下のようなものが挙げられます。
株式会社電通では、2016年10月から、会社ビルを午後10時に強制消灯するという防止策を実施しています。伊藤忠商事株式会社でも数年前から、同様の取り組みが行われています。実際には、労働時間の前倒しで出社時間が早まっているようですが、それでも深夜の長時間労働の防止に一定の効果が見込めます。なお、消灯ではなく、強制的にエアコンを停止するという防止策を採用している企業もあるようです。
また、KDDI株式会社は、2015年よりインターバル制度を導入しています。インターバル制度とは、その日の業務終了後、翌日の始業時刻まで一定の間隔をあけることを義務付ける制度です。既にEUでは、同制度に基づき、原則として11時間のインターバルをあけることが義務付けられています。日本では現時点では民間企業レベルでの取り組みですが、厚生労働省の労働政策審議会でも議題に上っており、注目度が高まっている制度です。

long working hour 400x267さらに、退社後や休日の労働時間を短縮する効果を持つ施策として、いわゆる「つながらない権利」を具体化する制度を取り入れる企業が増えています。つながらない権利とは、勤務時間外や休日に、従業員が仕事上のメールや指示から解放されるといった内容の権利のことをいい、既にフランスではこの権利を実現する労働法の改正案が議論されています。例えば三菱ふそうトラック・バス株式会社では、2014年から、長期休暇中に社内からの電子メールを受信拒否・自動削除できるシステムを導入しています。メールが自動削除された場合、メールの送信者に対してのみ、その旨が通知される仕組みとなっております。ジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社でも、2016年4月より、勤務日の午後10時以降と休日の社内メール自粛の全社的な呼びかけを行っています。

企業が、従業員の労働時間の管理・監督を怠り、労働基準法に違反していることを認識しないまま、気が付いたら根深い労働問題が発生していた、労働紛争を起こされてしまった、という事例は少なくありません。既に説明したように、労働基準法違反には厳しい刑罰が定められているほか、高額の民事賠償責任も負いかねません。Q5で紹介した労働問題の予防制度の構築のためには就業規則の改訂が、既に生じている労働問題の早期解決のためには、弁護士による労働紛争への対応が必須です。手遅れになる前に一度、弁護士に相談してみてはいかがでしょうか。


弁護士法人 法律事務所オーセンスでは、上記のような労務管理に関するビジネスのお悩みをはじめ、会社法務、各種契約案件、M&A、労働トラブル、インターネットビジネス等の法律に関わる課題について、経験豊富な弁護士が対応可能です。
まずは、お気軽にご相談ください。
お問い合わせはこちら

Join the conversation

0 comments

Your email address will not be published. Required fields are marked *